第4号 縛られる日本メディアの中国報道

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      第4号 (2011年7月19日)
   ▼ 縛られる日本メディアの中国報道
   ▼ 読者感想 努力が足りない中国社会
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▼ 縛られる日本メディアの中国報道

 北京に戻ってから、日本メディアの中国に関する報道は、日本経済新聞を除き、つまらなく感じるようになった。ほとんど決まった論調の記事しかないからだ。「中国メディアが日本本来の姿を伝えていない」というのは日本ではよく聞く話だが、日本メディアの中国報道も縛られている気がする。

 去年1月末、東京で日中両国の有識者による歴史共同研究委員会は双方の報告書を公表した。注目されていた南京大虐殺による犠牲者数については、中国側は東京裁判の数字を引用し、日本側は学者の推定で表現した。双方とも第3者によるデータを使い、激しい対立を避けた。

 その取材に当たったある日本大手マスコミのベテラン記者がさすがに新しい動きを敏感に把握し、原稿を書いたが、編集テスクのところで通らなかった。理由は「国民が対立していると思っているから」だという。結局は記事の見出しが「南京虐殺犠牲者一致せず」で、新しい動きがぜんぜん反映されないニュースとなった。「動きとまったく逆となっている」と、「空気」が読めないとされるベテラン記者がため息をつく。

 この「空気」や決まった論調を纏めれば、だいたい反日、食の安全、偽物大国、人権侵害、デモ多発、海洋権益をめぐる強硬姿勢などとなっている。限られた紙面、人手で日本メディアがこの「空気」に沿って報道する。刺激された多くの読者が「やはり中国がひどい」と思い、更なる刺激な記事を求める。「日本の対中感情とメディアの中国報道が悪循環となってしまった」と、中国特派員の経験も持つある大手マスコミの論説委員が嘆く。

 ここで誤解しないでほしいのは、決して中国への批判記事が嫌いということではない。中国報道に多様性が欠けることが問題なのだ。新しい情報が日本に入ってこないし、病的中国観につながりかねないからだ。一年前、小生のインタビューを受けた経済評論家の堺屋太一氏が、「中国の現代文化が日本にまったく入ってこないような断絶が起こっている」という。

 このように感じたのは私だけではない。北京在住のライターの三宅玲子さんが、漁船衝突事件で北京の中国人は政治と人間関係を切り離して付き合う人が多いと感じたことを日本の友人に話したが耳を貸さなかったという。これをきっかけに仲間を集めテレビや新聞ではひろわれない中国人の素顔のストーリーを集積する「BillionBeats」というウェブサイトを立ち上げた。

 もう一人北京在住のライターの小林さゆりさんが中国社会を客観的に伝えようと、ブログ「北京メディアウオッチ」でフレッシュな中国情報を発信。日本僑報社の段躍中編集長が創業15年で、『必読!今、中国が面白い2011』など日中関連書籍を200冊以上出版。

 だが、彼らの有益的活動はまだまだ日本社会に認識されていない。応援したい。

参考:
北京メディアウオッチ:http://pekin-media.jugem.jp/
Billion Beats:http://www.billion-beats.com/
中国研究書店:http://duan.jp/
段躍中日報(ブログ)http://duan.exblog.jp/

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▼ 読者感想 努力が足りない中国社会

 先月のメルマガ「マイナス財産」が在日ジャーナリスト莫邦富さんのコラム、在中ライターの小林さゆりさんのブログで紹介され、小さな話題となったようです。多くの方から感想もいただきました。改めて感謝いたします。
       莫邦富さんのコラム http://diamond.jp/articles/-/12629
       小林さゆりさんのブログ http://pekin-media.jugem.jp/?eid=1176

 多くの感想が心を打ちましたが、そのうち、中国に9年間滞在し、去年日本に戻ったAさんの感想にとっても感銘を受けました。中国人の私は自省すべきです。それでは、Aさんの感想を紹介いたします。

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 いつもメルマガを楽しみに拝見しております。今回はとても興味深い話題だったので、突然ながらメールを差し上げました。

 わたしも日本に帰国してまもなく1年になります。いまは法律事務所で翻訳の仕事をしています。

 北京生活は9年近くにおよび、王さんの15年に比べれば短いのですが、日本で社会人生活はほとんど経験していないので、王さんとは反対に、日本の社会に溶け込む難しさ、とまどいを感じています。

 わたしはどちらかというと「コツコツと努力する」ほうが得意で「自己PR」が苦手な典型的な日本人タイプだと思うのですが、それでも9年間の中国生活でだいぶ「中国人らしく」なっていたようです(笑)。

 確かに、「日本式」というのは世界の中でもかなり特殊な方式で、それに慣れてしまうとグローバルなプラットフォームで戦っていくのは難しく、ましてや「真逆」ともいえる現在の中国においては、「マイナス」になってしまうのかもしれません。

 ただ、「コツコツと努力する」ことは大変重要なスキルで、実際、日本はこれによって世界から「信頼」を勝ち得てきました。(現在の日本は迷走していて、「コツコツと努力する」という日本の美徳がだんだん失われていることに危惧を覚えます)

 中国は競争が激しく、「努力」していればいつかは認められるというような甘い社会ではないということはわたしも十分承知していますが、それだけに、いまの中国には、「自己PR」ばかりに気をとられて、「真摯さ」や「努力」することをおろそかにする傾向が少しあるような気もします。

 わたしが中国で仕事をして感じたのは、確かに中国の人は概ね「自己PR」が上手いけど、やっぱり本当に優秀な人は、「コツコツと努力」しているということです。「自己PR」が上手いだけの人は、短期的には仕事がまわってきたとしても、最終的には評価されません。

 効率的に物事を考え、「自己PR」が得意な中国人と真摯に物事と向き合い、「コツコツと努力する」ことが得意な日本人。ある意味「真逆」の中国人と日本人がタッグを組んだら、まさに「互補優勢」、向うところ敵なしだと思っています。ただ、「真逆」の中国人と日本人に上手くタッグを組ませるのは難しい。そうしたときに架け橋になるのが、相手国での滞在経験が長い王さんやわたしの役割ではないでしょうか。

 長いメールになってしまってごめんなさい。お互い、日本(中国)での経歴を「プラス財産」にできるようがんばりましょう!

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